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東京高等裁判所 平成5年(ネ)3355号 判決

控訴人

日建建設株式会社

右代表者代表取締役

鈴木隆雄

右訴訟代理人弁護士

澤口実

小林啓文

被控訴人

出口三郎

右訴訟代理人弁護士

神山美智子

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、金一四六一万一〇〇〇円及びこれに対する平成三年九月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

控訴棄却

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被控訴人及び控訴人は、いずれも建築工事の請負を業としている。

2  被控訴人と控訴人は、昭和六二年一〇月、被控訴人を注文者、控訴人を請負人として、学校法人佐藤栄学園那須セミナースクール第一期工事(西館改修工事及び食堂棟新築工事)の請負契約を締結した。

3  第一期工事の請負代金は当初四〇〇〇万円と定められていたが、追加工事があり、被控訴人は控訴人に対し、右四〇〇〇万円のほかに、さらに一〇〇〇万円を支払った。

その後、第一期工事の追加工事の代金について被控訴人と控訴人の間に争いが生じ、被控訴人は譲歩してさらに四〇〇万円を支払ったが、控訴人は一〇〇〇万円の支払を主張し、結局、被控訴人は、控訴人が後述の第二期工事を受注して完成し、かつ、その代金総額を右一〇〇〇万円を含めて一億四〇〇〇万円以下にすることを条件に追加工事代金一〇〇〇万円の支払に応ずることにした。

4  被控訴人と控訴人は、昭和六三年一〇月末頃、被控訴人を注文者、控訴人を請負人として、前記セミナースクール第二期工事(本館新築工事及び東館改修工事)の請負契約を代金は一億三九五〇万円との約定で締結した。代金は、出来高払ではなく、分割払にするとの約定であった。

この契約について、契約書は取り交わされていないが、控訴人は注文請書及び工事工程表を被控訴人に提出しており、右契約が成立したことは明らかである。

5  控訴人は、右契約に基づいて、昭和六三年一一月頃から、旧本館解体工事及び外構工事に着手した。

そこで、被控訴人は、同年一一月二六日、控訴人に対し、右契約に基づく前渡金として、三〇〇〇万円を送金した。

6  ところが、控訴人は、平成元年四月六日、被控訴人に対し、これまで被控訴人との折衝に当たってきた瀧田専務が退職し、他に担当者がいないとの連絡をしてきた。そして、第二期工事を続行しなかった。

7  そこで、被控訴人は、他の請負業者に依頼して第二期工事を完成させたが、当初の予定より大幅に完成が遅延した。

セミナースクールは高校生の合宿所であるから、浴室は必要不可欠な施設であって、学生が利用する夏の初め(六月)には浴室を完成させることが第二期工事において最も重要な点であった。

しかし、第二期工事の続行工事を依頼した請負業者も平成元年六月までに浴室を完成することができなかったので、学園はやむなく近くの旅館、ホテルなどに頼んで入浴させてもらった。被控訴人は、その入浴代五六万一〇〇〇円を支払った。

また、学園は、浴室がなく、玄関ロビーも工事中の施設に学生を宿泊させることはできないと判断して、学生らを他の施設に宿泊させた。そして、被控訴人は、元請であるクボタ産業株式会社(以下「クボタ産業」という。)から、学生の宿泊代として、一四七七万八〇〇〇円を、被控訴人がクボタ産業から受け取るべき請負代金と相殺されてしまった。被控訴人としてはこれを甘受せざるをえなかったものであって、右宿泊代相当額も控訴人の債務不履行によって被控訴人が被った損害である。

なお、第二期工事の建築確認が遅れて、その時期は平成元年七月になったが、第一期工事についても工事完成時に近い時期に建築確認がされており、第一期工事に際して行うことができたことを第二期工事では不可能であったとする理由はない。本件セミナースクールの工事においては、事前着工せざるをえないなど、法に違反しても工期を守らざるをえない事情があったものである。

8  被控訴人は、本件第一期工事及び第二期工事を行うについて、「クボタ産業・出口」という名称を使用していたが、控訴人に対する注文者はクボタ産業ではなく、被控訴人がクボタ産業の下請として受注し、さらにこれを控訴人に発注したものである。

9  被控訴人は、控訴人に対し、前記のとおり第二期工事の前渡金として三〇〇〇万円を支払ったが、そのうち控訴人が施工した旧本館解体工事の代金二〇〇万円を除いた二八〇〇万円は返還されるべきものである。

10  よって、被控訴人は、控訴人に対し、支払超過分二八〇〇万円及び控訴人の債務不履行による損害賠償金一五三三万九〇〇〇円及びこれら金員に対する本件訴状送達の日の翌日である平成三年九月二七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項のうち、控訴人が建築工事の請負を業とすることは認めるが、その余の事実は否認する。

2  同2項は否認する。

ただし、控訴人は、被控訴人が建築事業部部長をしているクボタ産業から被控訴人主張の第一期工事を請け負ったことはある。

3  同3項のうち、第一期工事の請負代金は四〇〇〇万円であったが、追加工事があり、控訴人がさらに一〇〇〇万円及び四〇〇万円の支払を受けたことは認めるが(ただし、クボタ産業から支払を受けたものである。)、その余の事実は否認する。

第一期工事の追加工事の代金は二〇〇〇万円と合意されたものである。

4  同4項は否認する。

クボタ産業から控訴人に対し第二期工事の引き合いがあり、控訴人は何回か見積書を提出し、工事内容や請負代金額について交渉が行われたものの、控訴人が受注を断り合意に至らなかったものであって、第二期工事についての請負契約は成立していない。

5  同5項のうち、控訴人が被控訴人主張の日に三〇〇〇万円の支払を受けたことは認めるが(ただし、クボタ産業からである。)、これが第二期工事の前渡金であることは否認する。

6  同6項は否認する。控訴人は、平成元年四月六日、被控訴人を通じてクボタ産業に対し、第二期工事は請け負わないことを通知したものである。

7  同7項は知らない。

本館新築工事の建築確認通知があったのは平成元年七月六日であるから(建築確認が遅れたのは発注者側の事情による。)、同日以降しか着工が法的に許されず、同日から工事に着工したとしても、同年九月末日までに浴室を使用できる状態にすることは不可能である。したがって、控訴人が工事をしなかったことと被控訴人主張の損害との間には因果関係がない。なお、被控訴人は、建築確認通知のある前に工事に着工することが可能であったと主張するようであるが、建築基準法に違反する違法行為の実行を求め、その不履行による責任を追及することは許されないことである。

また、そもそも、浴室の工事だけが完成しても、本館新築工事が適法に完成し、検査済証の交付を受けるまで浴室を含めた本館の利用はできない。しかし、本館新築工事を平成元年九月までに完成することは不可能であったものであり、しかも、本館工事については現在においても完了検査及び検査済証の交付が未了であるから、法的には本館は現在も利用できないことになる。そうすると、そもそも、被控訴人の主張する工事遅延による使用不能を理由とする損害は、法的保護の対象とはならない。

さらに、浴室が使用できなかったことと被控訴人主張の宿泊費相当の損害との因果関係は立証されていない。また、宿泊費については、他の施設を利用することによって、学生の食費・調理費・寝具レンタル料等の出費が不要となるから、その全額を損害と認めることはできない。

8  同8項は否認する。

控訴人は、クボタ産業から工事を請け負い、クボタ産業から代金を受け取ったものである。

9  同9項のうち、控訴人が施工した旧本館解体工事の代金が二〇〇万円であることは認め、その余の事実は否認する。

三  抗弁

1  控訴人が昭和六三年一一月二六日に受領した三〇〇〇万円は、第二期工事の前渡金ではなく、第一期工事追加工事の代金残額六〇〇万円、旧本館解体工事代金二〇〇万円のうち一〇〇万円及び控訴人が請け負った外構工事の代金二三〇〇万円に充てるものとして支払われたものである。また、控訴人はこれらの工事を施工しているのであるから、右三〇〇〇万円は、その性格の如何にかかわらず、これらの工事代金に充当されるべきである。

したがって、控訴人には右三〇〇〇万円のうち被控訴人主張の二八〇〇万円を被控訴人に返還すべき義務はない。

以下、これらの工事代金について説明する。

2  第一期工事の追加工事代金

前記のとおり、第一期工事の追加工事の代金は二〇〇〇万円と合意されたものである。そして、そのうち支払があったのは一四〇〇万円であるから、残額は六〇〇万円である。

被控訴人の主張によれば、施工していない工事について六〇〇万円も支払うことを認めたことになり、不合理である。

3  旧本館解体工事の代金

昭和六三年一一月二六日当時、旧本館解体工事は完成済みであったが、その代金は二〇〇万円である。

三〇〇〇万円のうち一〇〇万円は、この旧本館解体工事の代金二〇〇万円の一部である。

4  外構工事の代金

外構工事についても、昭和六三年一一月二六日当時、本館新築前に施工可能な範囲(九四パーセント)は完成済みであった。

外構工事の代金は二四五〇万円であったが、以下のとおり、既工事部分の出来高は、少なくとも二三〇〇万円と評価される。

(一) 外構工事の内容

外構工事の対象は、当初の見積(乙第九号証)のとおりではなく、このうち、必要のない工事を対象から除外し、また一部の工事を追加した。

除外された工事は、舗装工事について、① 北側駐車場、② 北側バス回転路、③ 南側バス回転路の一部(バス回転に必要な部分のみ施工する。)であり、また、南側玄関へのアプローチは舗装工事を行うこととしたが、整地することはせず、アスファルトのみ敷くこととし、南側バス回転路の一部施工する部分についても、アスファルトを敷くだけで済ますことにした。

擁壁ブロック工事は、その数量が増加した。

また、追加工事として、山神敷地工事及び食堂北側コンクリート工事がある。

(二) 既工事部分

控訴人が工事を終了させた部分は次のとおりである。

(1) 土工事

(2) 北側道路の舗装工事

(3) 排水工事(本館西出入口部分の排水工事を除く。)

(4) 擁壁工事

(5) (1)ないし(4)についての間接工事、現地測量及び設計、運搬並びに諸経費

(6) 山神敷地工事

(7) 食堂北側コンクリート工事

また、未履行部分は次のとおりである。

(1) 南側玄関へのアプローチ及び南側バス回転路の一部についての各アスファルト工事

(2) 本館西出入口部分のU字溝設置工事

(三) 既工事部分の出来高の評価

以下のとおり、いずれの観点からも、少なくとも二三〇〇万円であると評価できる。

(1) 完成工事代金の算定

乙第九号証(見積書)記載の単価と前記の既工事の範囲を基礎にして算定すると、工事代金は合計二四二五万二〇〇〇円となる。

① 土工事 三三八万三七〇〇円

乙第九号証から、乙第五一号証(外構工事の下請業者の当初の見積書)と第五二号証(右下請業者の工事内容変更後の見積書)の見積数量の差を減少させて算出した。

② 舗装工事 一五八万九〇〇〇円

施工数量を三五〇平方メートルに変更して算定したものである。

③ 排水工事 二〇九万二一〇〇円

未完成である西出入口排水一二メートル分を減少させて算定した。

④ 擁壁ブロック工事

八六四万八七五〇円

乙第九号証の数量に増加した数量(乙第五一号証と第五二号証の見積数量の差)を加えて算出した。

⑤ 間接工事費一七五万三二〇〇円

⑥ 現地測量及び設計費

一三〇万〇〇〇〇円

⑦ 運搬費 九九万五〇〇〇円

乙第九号証では、運搬費は直接工事費、間接工事費、現地測量及び設計費の合計の約5.3パーセントであるので、同様にして算出した。

⑧ 諸経費 一五六万〇〇〇〇円

運搬費と同様にして(ただし、諸経費は約8.3パーセントである。)算出した。

⑨ 山神敷地工事

二六一万二三五〇円

⑩ 食堂北側コンクリート工事

三一万七九〇〇円

(2) 未完成工事部分の控除

未完成工事部分の代金は次のとおりである。

① 南側玄関へのアプローチ及び南側バス回転路の各アスファルト工事

約六六万〇〇〇〇円

この面積は約四〇〇平方メートルであり、これに乙第九号証の単価を乗じて算出した。

② 本館西出入口部分排水工事

七八万四〇〇〇円

MUグレード四八万円、グレーチングブタ三〇万四〇〇〇円である。これらは見積は三二メートルであるが、未了の部分はその一部である。

以上を合計すると約一四四万円となり、請負代金額二四五〇万円の約六パーセントとなる。実際の未履行工事の代金額はこれより少ないが、譲歩した上で、出来高九四パーセント(二三〇〇万円)として請求したものである。

(3) 下請業者への支払額

控訴人は、外構工事の下請業者である渡辺建設株式会社にその代金として既に一九〇〇万円を支払っている。

この金額に控訴人の現場管理費、間接費、利潤等を加算すれば、控訴人の請求金額二三〇〇万円が相当であることは明らかである。

(四) 外構工事代金の弁済期

被控訴人は、外構工事が未完成であるから、その代金の弁済期は到来していないと主張するが、弁済期は、注文請書(甲第二号証)が合意内容であればこれに記載されているとおり出来高払になるし、そうでないならば見積書(乙第九号証)記載のとおり「従来通り」ということになり、従来どおりとは、「切りの良い時期」に分割して支払うということである。

また、本件外構工事は、多数の独立した請負工事の集合的契約であり、仕事の完成は個々の工事ごとに観念できるから、これらの集合的工事のごく一部が未履行であることを理由として、既履行部分の工事代金の弁済期が到来しないとすることはできない。

いずれにせよ、第二期工事は第三者に発注されたのであるから、遅くともこの時点では出来高を清算すべきであり、弁済期は到来する。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1項は否認する。

2  同2項は否認する。ただし、被控訴人が第一期工事の追加工事の代金として一四〇〇万円を支払っただけであることは認める。

第一期工事の追加工事の代金については、重複して請求されたり、また、変更された工事の代金が減額されていなかったりしてその額に争いがあったが、前記のとおり、被控訴人は、控訴人が第二期工事を請け負うことなどを条件に追加工事の代金を二〇〇〇万円とする(一〇〇〇万円のほかにさらに一〇〇〇万円を支払う。)ことを認めたのである。しかし、控訴人は第二期工事を施工していないのであるから、被控訴人には右追加工事の代金六〇〇万円を支払う義務はない。

3  同3項のうち、旧本館解体工事が昭和六三年一一月二六日までに完了していたこと、その代金額が二〇〇万円であったことは認める。

4  同4項は争う。ただし、外構工事の代金が二四五〇万円と合意されていたことは認める。

(一) 同項(一)のうち、控訴人主張の工事が除外されたこと、擁壁ブロック工事の数量が増加したことは否認する。外構工事は、乙第九号証の見積書の内容どおりに決定されたものである。

また、控訴人が追加工事であると主張する山神敷地工事はサービス工事として依頼したものである。また、食堂北側コンクリート工事は、第一期工事の西館改修工事に含まれる工事であって、外構工事の追加工事ではない。

(二) 同項(二)は争う。控訴人は、外構工事をほとんど完成させていない。

(三) 同項(三)及び(四)は争う。

外構工事の代金は、数回に分割して支払う旨約されていたのであって、出来高に応じて支払う旨の合意ではなかったから、被控訴人には出来高に応じた代金を支払う義務はない。

また、控訴人は外構工事の完成引渡をしていないのであるから、いまだその代金の支払時期は到来していない。

仮に、請負契約の性質上、実際の出来高がある場合には、被控訴人に利益が残っている部分については、それに見合う代金を支払う義務があるとしても、被控訴人は控訴人の主張する出来高を争う。未履行工事部分を控除して出来高を算定する方法は、その前提となる工事の範囲に関する控訴人の主張が誤りなのであるから、意味がない。また、下請業者への支払は被控訴人に関係のないことであり、これによる立証は不当である。被控訴人としては、控訴人から下請業者に一九〇〇万円が支払われたと信じることはできない。

被控訴人には、外構工事について、一切の支払義務がない。

第三  証拠

証拠の関係は、原審及び当審記録中の証拠目録に記載のとおりである。

理由

一  控訴人が建築工事請負を業とするものであることは当事者間に争いがなく、原審における被控訴人の本人尋問(第一回)の結果によれば、被控訴人も建築工事請負を業とするものであることが認められる。

二  本件各工事の契約当事者について

1  本件各工事に関して控訴人などによって作成された契約書等の書類には、以下のとおり、控訴人の相手方当事者の表示として様々の名称が使用されている。

(一)  成立に争いのない甲第四号証の一(平成元年四月六日付けの第二期工事について連絡する書面)及び第一六号証の一、二(昭和六三年六月二五日付けの本館新築工事の見積書)の宛名は、「出口三郎」(被控訴人)又は「出口様」である。

また、成立に争いのない甲第二二号証の一ないし三及び原審における被控訴人の本人尋問(第一回)の結果によれば、昭和六三年中に、控訴人から、クボタ産業へではなく、被控訴人の自宅へ、見積書等の本件各工事に関する書類が送付されてきた事実があることが認められる。

(二)  しかし、成立に争いのない甲第二号証(第二期工事の注文請書)の宛名は「クボタ産業株式会社 出口部長殿」である。

成立に争いのない甲第一五号証、乙第一一号証、第一三号証(乙第一一号証、第一三号証については、「入金済」と記入された部分を除く。)は、いずれも請求書であるが、宛名は「クボタ産業(株)」である。なお、乙第一〇号証、第一二号証、第一四、第一五号証も請求書であって、宛名は「クボタ産業(株)」となっているが、原審(第一回)及び当審における被控訴人の本人尋問の結果によれば、これらの請求書は被控訴人あるいはクボタ産業には送付されてきていないことが認められる。

成立に争いのない甲第一七号証、第一八号証の一、二、第一九ないし第二一号証、第二六、第二七号証、第三八号証(書き込み部分を除く。)、乙第四号証、原審証人瀧田安行の証言(第一回)によって成立が認められる乙第一ないし第三号証、第五ないし第九号証(第一号証の表紙及び表題部分を除く部分、第二号証の二枚目及び最終頁を除く部分、第五、第六号証の各表題部分を除く部分、第七号証の表題部分、一頁二行目、三頁二行目及び四頁一三行目の各金額欄の記載、四頁一三行目の括弧内の記載部分、五頁を除く部分、第九号証の表題部分を除く部分の成立は争いがない。)は、いずれも見積書であるが、その宛名は「クボタ産業(株)」である。

そして、成立に争いのない乙第二六号証及び原審における被控訴人の本人尋問(第一回)の結果によれば、控訴人は、「クボタ産業株式会社建築事業部部長出口三郎」という名刺を使用していたことが認められる。

(三)  また、成立に争いのない甲第五号証、第七号証、第一四号証の八、乙第二三ないし第二五号証によれば、本件各工事の代金の一部は控訴人の口座に「伊藤工務店」名義(ただし、振込金受取書の依頼人の名義は「伊藤工務店 出口」となっている。)ことが認められる。成立に争いのない甲第一四号証の二ないし七、乙第一七ないし第二二号証によれば、本件各工事の代金の領収証の宛名も、いずれも「伊藤工務店」となっていることが認められる。

成立に争いのない甲第一四号証の一、原審証人瀧田安行の証言(第一回)、原審(第一回)及び当審における被控訴人の本人尋問の結果によれば、第一期工事に関する控訴人を請負人とする契約書の注文者は「伊藤工務店 伊藤貞雄」となっていることが認められる。なお、原審(第一回)及び当審における被控訴人の本人尋問の結果とこれによって原本の存在と成立が認められる甲第一三号証によれば、第二期工事に関する注文者をクボタ産業とする契約書の請負人も「伊藤工務店 伊藤貞雄」とされており、被控訴人は監理技師となっていることが認められる。

(四)  さらに、原審(第一回)及び当審における被控訴人の本人尋問の結果とこれによって成立が認められる甲第九号証の二、第一〇号証の一、二によれば、被控訴人が主張する入浴代についてのクボタ産業発行の領収証の宛名は「栄真建設」であり、宿泊代についてのクボタ産業の請求書及び証明書の宛名は「(有)栄真建設」とされていることが認められる。

そして、成立に争いのない甲第二三号証によれば、有限会社栄真建設は、平成元年七月一四日に、代表取締役を被控訴人、目的を土木建築、鉄骨建築工事の請負等として設立された会社であることが認められる。

2  以上のとおり、様々な名称が使用されているところ、原審証人瀧田安行は、第一回証言において、控訴人は本件各工事はすべてクボタ産業から請け負ったものであると証言している。

しかし、原審(第一、二回)及び当審における被控訴人の本人尋問の結果によれば、被控訴人はクボタ産業の従業員ではなく、クボタ産業の建築部部長という名刺は学校法人佐藤栄学園関係の工事をするに際して使用しただけであること、本件各工事は右学校法人からクボタ産業が請け負い、これを被控訴人が下請けし、さらに被控訴人が控訴人に請け負わせたものであるが、被控訴人は学園の関係者とはクボタ産業の部長であるとして会っていたため、クボタ産業から被控訴人個人が受注しており、契約書等が被控訴人の個人名では、調査をされたときなどに問題が生ずると思われたので、被控訴人の下請の大工である伊藤貞雄(伊藤工務店)の名義を使用したこともあること、このような事情は控訴人側も了解していたこと、被控訴人は、有限会社栄真建設の設立前の昭和六三年当時に、栄真建設の出口とも名乗っていたことが認められる。原審における被控訴人の本人尋問(第一回)の結果によって成立が認められる甲第一一(クボタ産業の証明書)、第一二号証(伊藤貞雄の証明書)も、このことを裏付けている。

したがって、前記の瀧田安行の証言は信用し難く、本件各工事についての請負人を控訴人とする請負契約は、被控訴人を注文者として、控訴人と被控訴人との間で締結されたものであると認められる。

三  控訴人が第一期工事を、当初、代金四〇〇〇万円で請け負い、追加工事があったためさらに一〇〇〇万円及び四〇〇万円の支払を受けたこと、控訴人が旧本館解体処分工事を代金二〇〇万円で請け負い、これを昭和六三年一一月二六日までには完成させたこと、控訴人が外構工事を代金二四五〇万円で請け負ったこと、控訴人が、昭和六三年一一月二六日、三〇〇〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、前記認定の事実によれば、これら工事の控訴人に対する注文者は被控訴人であり、右三〇〇〇万円を支払ったのも被控訴人であることになる。

そこで、控訴人が右三〇〇〇万円から旧本館解体工事代金二〇〇万円を控除した二八〇〇万円を被控訴人に返還する義務があるかどうか、判断する。

四  第一期工事の追加工事の代金額について

甲第一五号証(昭和六三年八月三一日付け請求書)には、第一期工事の代金は合計六〇四七万六一七五円であるが、四七万六一七五円を値引きして、五〇〇〇万円の支払がされているので、今回最終金額は一〇〇〇万円である旨の記載がある。また、乙第一一号証(昭和六三年九月三〇日付け請求書控え)にも、第一期工事の決定請負額は追加を含めて六〇〇〇万円であり、今回、残額一〇〇〇万円を請求する旨の記載がある。さらに、甲第二号証(第二期工事の注文請書)には、「前回第1期工事追加」として一〇〇〇万円である旨の記載がある。

そして、原審(第一、二回)及び当審証人瀧田安行は、第一期工事の追加工事の代金は二〇〇〇万円と合意されたと証言している。

これに対し、被控訴人は、原審(第一回)及び当審における本人尋問において、控訴人は第一期工事の追加工事の代金として二〇〇〇万円の支払を求めたが、被控訴人は、当初の工事と重複している工事があったり、変更した工事について施工しなくなった部分の工事についての減額をしていないなどの事実があることを理由に、一〇〇〇万円の限度で認めた、控訴人はさらに一〇〇〇万円を支払うことを要求し、被控訴人は四〇〇万円を支払った、控訴人の担当者瀧田はなおも会社(控訴人)に対する自分の体面もあるので一〇〇〇万円全額の支払に応じてもらいたいと懇請したので、被控訴人は、控訴人が第二期工事を請け負ってこれを施工すれば、さらに六〇〇万円を支払うことを認め、第二期工事の請負代金の支払の一環としてこれを支払うことにした、と供述している。

控訴人の請求した代金額と被控訴人が支払った代金額との差額である六〇〇万円という金額は高額であるから、その支払を拒否していた被控訴人が増額を無条件で認めたものとは考えられず、被控訴人の右供述のとおり、条件付きで認めたものと考えるのが合理的である。

証人瀧田安行は、原審第二回証言において、追加工事代金の請求には重複分などは含まれていないと証言しているが、仮にそのとおりであったとしても、右認定を覆すに足りるものではない。また、当審証人瀧田安行の証言によって成立が認められる乙第五七号証によれば、第一期工事の追加工事についての控訴人の見積額は二〇七八万八三六〇円であり、控訴人はそのうち相当額を下請業者に支払っていることが認められるが、この事実も右認定を左右するものではない。

ところで、後に認定するとおり、控訴人は第二期工事を施工しなかったのであるから、第一期工事の追加工事の代金について六〇〇万円を増額するための条件は成就していないことになり、被控訴人は控訴人に対し右六〇〇万円を支払う義務はない。

五  外構工事について

1  外構工事の範囲・内容

当審証人瀧田安行は、外構工事の範囲について、乙第九号証の見積書の内容に変更が加えられたとして、ほぼ控訴人の主張に沿う証言をしている(もっとも、当審証人瀧田安行の証言の内容は、控訴人の主張よりも工事内容の増減の経緯がはるかに複雑である。)。そして、このことを裏付ける事実として、① 乙第九号証の表紙の「旧大広間、アプローチすき取なし」との記載は、旧大広間の部分とアプローチ部分については整地しないでアスファルトを敷く工事をすることにしたことを意味し、「モータープールオーバレイのみ」との記載は、南側バス回転路については、路盤の上に既にコンクリートが打設してあるとか、アスファルトが粗く敷いてある状態の上にプライムコートを塗ってアスファルトの表層工を仕上げることを意味すること、② 乙第九号証の見積金額は二八七二万三八一〇円であるが、これが二四五〇万円と決定されたものであって、四〇〇万円も減額になっているが、それにもかかわらず工事内容が同一ということはありえないこと、③ 下請業者の見積金額が二三九〇万円であって(乙第五一号証)、このような工事を控訴人がこれとあまり差がない二四五〇万円で請け負うことはできないこと、④ 工事内容の増減を明確にするために控訴人は下請業者から改めて見積(乙第五二号証)をとっており、乙第五一号証の当初の見積書とは舗装工事、土工事及び擁壁工事の施工面積が異なっていること、⑤ 北側駐車場の舗装工事を除外したのは、ここに運動場を造る計画があったからであり、遊地の舗装工事を除外したのは、同所にバーベキューハウスを造る計画があったからであって、それぞれ理由があったこと、以上の事実を挙げている。そして、当審における被控訴人の本人尋問の結果とこれによって成立が認められる甲第二四号証の一によれば、学校法人佐藤栄学園の理事長が作成したメモに、裏グランド(甲第二四号証の一の二枚目に記載された図面と、書き込み部分を除いて成立に争いのない乙第五四号証の図面とを対比すると、裏グランドというのは、北側駐車場とされている部分であると推測される。)の階段部を土盛り、整地すればテニスコート二面の設置が可能である旨の記載があり、また、遊地の部分にはバーベキューハウスを造る計画があったことが認められ、右⑤の証言に符合するものである。

しかし、被控訴人は、当審本人尋問において、外構工事の代金額が見積書の二八七二万円余りの金額より少ない二四五〇万円と決定されたのは単なる値引きであり、乙第九号証の表紙の前記記載に関する前記瀧田証言のような話は出たことはない、舗装工事の一部を除外するということにしたことはない、と供述している。そして、原審においても外構工事の出来高は重要な争点になっていたのに、瀧田安行証人は、原審における二回にわたる証言においては、外構工事について当初の見積の工事内容・範囲について増減があったことは全く証言しておらず、乙第九号証の表紙の「旧大広間、アプローチすき取りなし」、「モータープールオーバレイのみ」との記載についても、原審第二回証言においては、この部分の工事は乙第九号証の見積書には含まれておらず、表紙に付記された右工事を含めて請負代金は二四五〇万円と決定された、と証言し、当審における証言とは全く異なる趣旨の証言をしていること、乙第九号証の表紙の右付記は瀧田安行が記載したものであって(同人の当審証言によって認めることができる。)、これに対応する被控訴人に提出された見積書である甲第三九号証にはこのような付記はないこと、乙第五二号証の見積書も当審に至って初めて証拠として提出されたものであり、しかも、右見積書は控訴人に対する控訴人の下請業者の見積書であるが、控訴人が被控訴人に対して増減後の工事内容(当審証人瀧田安行が証言する増減の経緯、内容は極めて複雑で、しかも工事内容は二転、三転したとする。)に沿った見積書を改めて提出した証拠はないこと(当審証人瀧田安行は、被控訴人には改めて見積書を提出しなかったと証言している。)、二八七二万円余りの見積金額から単純に四〇〇万円余りを値引きすることもありえないことではないこと等を併せ考えると、前記証人瀧田安行の当審証言は、前記のこれを裏付ける事実を考慮しても、信用することができないといわざるをえない。

したがって、外構工事の内容・範囲は、乙第九号証に記載のとおりであり、増減はなかったと認められる。

2  外構工事の追加工事について

控訴人が山神敷地工事を施工したことは当事者間に争いがない。しかし、当審における被控訴人の本人尋問の結果によれば、この工事は学園から要望があったものであるが、学園の教師が瀧田安行らに対して、今後那須セミナースクールの工事はすべて控訴人が請け負うことができるのであるから、山神敷地の工事位はサービスしたらどうかと申し入れたところ、瀧田安行はこの工事はサービスで施工すると回答したことが認められる。また、この工事について控訴人から被控訴人に対し、見積書が提出されたことを認めるに足りる証拠もない。そうすると、控訴人と被控訴人の間においても、この工事は無償で施工する旨の合意が成立していたものと推認することができる。控訴人は、この工事の代金は二六一万二三五〇円であると主張するが、このような金額の工事であっても、事情によっては無償で施工することがありえないものではない。

また、当審証人瀧田安行は、食堂北側コンクリート工事も追加工事であり、乙第五二号証の見積書の「雑工」「土間コンクリート一式」がこれに該当すると証言しているが、乙第五二号証の記載だけではこれが食堂北側コンクリート工事であるとは断定できない。そして、弁論の全趣旨によれば、この食堂北側コンクリート工事は、第一期工事のうち西館改修工事に含まれると認められる余地があり(なお、西館改修工事の見積書である乙第一号証には、外構工事も含まれており、コンクリート工事も見積もられている。)、追加工事であると認めることはできない。

したがって、控訴人は、外構工事についての追加工事の代金を請求することはできない。

3  外構工事の出来高に対応する代金請求権の存否

外構工事について未完成の部分があることは、控訴人の自認するところである。

しかし、このような場合には請負人は工事代金を全く請求できないとするのは相当ではない。工事全体が未完成であっても、工事内容が可分であり、かつ注文者が既工事部分の給付に関し利益を有するときは、特段の事情のない限り、請負人は、既工事部分の出来高に相当する請負代金を請求することができると解するのが相当である。

そして、当審における被控訴人の本人尋問の結果によれば、本件外構工事については、未完成部分は他の業者に工事を続行させたものであって、補修を要するので撤去した部分や撤去しないまでも補修をした部分はあるが、それ以外は控訴人が施工した部分はそのまま利用することができたことが認められる。そうすると、控訴人が施工した部分は、可分であり、その給付に関して被控訴人は利益を有していたものということができる。

したがって、控訴人は被控訴人に対し、既工事部分の出来高に対応する請負代金を請求することができるというべきである。

被控訴人は、外構工事の代金については、出来高に応じて支払う旨の約定はなかったと主張する。その趣旨は必ずしも明らかではないが(弁済期について、出来高払の約定はなかったとする趣旨のように解される。)、少なくとも、出来高の如何にかかわらず、完成しない以上は、被控訴人は一切請負代金を支払う義務を負わない旨の約定があったことを認めるに足りる証拠はない。その他、出来高に対応する請負代金の請求ができないとすることを相当とするような特段の事情は見いだすことができない。

また、このような場合に、請負人が工事を続行しないことが確定したときには、もはや工事全部を完成することはないのであるから、この時点において出来高に対応する請負代金の弁済期が到来するものと解するのが相当である。

4  出来高の算定

まず、当審証人瀧田安行の証言とこれによって成立が認められる乙第五五号証及び弁論の全趣旨により、かつ乙第九号証記載の単価に基づいて、算定すると、外構工事の出来高は次のとおりの金額となる。

(一)  土工事

当審証人瀧田安行は、土工事は乙第九号証の見積書記載の土工事の全部は施工していないと証言しているが、右証言によっても、どの部分を施工していないのか必ずしも明らかではない。

控訴人の主張は、乙第九号証記載の数量から、乙第五一号証と第五二号証の数量の差を減少させて算出したというものであり、乙第九号証の土工事の代金四三九万四〇五〇円より少ない三三八万三七〇〇円であるというものである。

しかし、右控訴人の主張の基礎となっている数量(平成七年三月八日付け準備書面の別紙外構工事計算書に記載されている。)は、乙第五二号証記載の数量よりも、多くなっている(「床整正」だけは同一である、)。そして、前記のとおり、乙第五二号証は、増減後の工事内容に対応する見積であるというのであるから、実際に施工された数量は乙第五二号証記載の数量である可能性があるといわなければならない。乙第五二号証記載の数量は、いずれも乙第九号証記載の数量よりも少ないから、より少ない方の乙第五二号証記載の数量によって算定するのが相当である。

そして、乙第五二号証記載の数量に乙第九号証記載の単価を乗じて算定すると、「根切り掘削」が九七万八五〇〇円、「盛土」が三三万四六〇〇円、「埋戻し」が九万一二〇〇円、「残土処分」が九一万九八〇〇円、「床整正」が九万一八〇〇円であって、土工事全体の合計は二四一万五九〇〇円である。

(二)  舗装工事

乙第九号証の見積書の数量は一九六九平方メートルであるが、控訴人が施工した数量は三五〇平方メートルであることが認められるから、その代金は見積書記載の八九三万九二六〇円の一九六九分の三五〇である一五八万九〇〇〇円である。

(三)  排水工事

西入口排水一二メートル分(MUグレード、グレーチングブタ各一二メートル)が未完成であるものと認められ、この分を控除すると排水工事の代金は二〇九万二一〇〇円である。

なお、乙第五五号証は、このほかに、排水工事についての未完成部分として土工事三立方メートル九一五〇円を計上しているが、これを計上している理由が不明であるので、控除しないことにする。

(四)  擁壁ブロック積工

乙第九号証の見積書記載の工事は全部完成したことが認められる。控訴人は、擁壁ブロック積工は増加した分があると主張するが、前記のとおりこの事実を認めることはできないので、乙第九号証の見積書記載の金額とするべきであるが、乙第五二号証記載の数量は、ガードレールだけが乙第九号証(二三メートルである。)よりも少ない一九メートルであるとしているから(それ以外の工事は、乙第五二号証と乙第九号証は、数量が同一か乙第五二号証の方が多い。)、ガードレールについては少ない方の乙第五二号証の数量により、それ以外の工事はやはり数量が少ない乙第九号証の数量によるべきである。

そうすると、擁壁ブロック積工の出来高は合計六六七万三二〇〇円となる(ガードレールは一三万三〇〇〇円であり、それ以外の工事は乙第九号証記載の金額となる。)。

以上の合計額は一二七七万〇二〇〇円である。

次に、乙第九号証の見積書では、以上の工事費のほかに、間接工事費、現地測量及び設計費、運搬費並びに諸経費として合計六三〇万三二〇〇円が計上されている。右見積書では、直接工事費が二二四二万〇六一〇円であるのに対して、間接工事費等が六三〇万三二〇〇円であるから、直接工事費が右のとおり一二七七万〇二〇〇円に減少した場合には、これに対応する間接工事費等も同じ割合で減少するものと考えられ、間接工事費等は三五九万〇一四〇円となる(円未満を四捨五入する。)。乙第九号証によれば、間接工事費用の中には、仮設事務所、機械器具損料、雑仮設足場代等が含まれており、その中には、直接工事の規模にかかわらず一定の金額の費用を要するものもあるものと推測されるが、どのような費用がこのような費用に該当するのか明らかではないから、右のような算定方法によるほかはない。

そうすると、直接工事費と間接工事費等の合計額は、一六三六万〇三四〇円となる。

そして、乙第九号証の見積書の総合計金額は二八七二万三八一〇円であったが、これが二四五〇万円と決定されたのであるから、右一六三六万〇三四〇円も同一の率によって圧縮させるべきであり、結局、一六三六万〇三四〇円は一三九五万四五六六円となる。

以上の算定の過程には実際の工事費用の積算によるものではない部分が含まれているので、外構工事の出来高は、一万円未満の端数を切り捨てて一三九五万円とすることにする。

なお、原審(第二回)及び当審証人瀧田安行の証言とこれによって成立が認められる乙第三〇、第三一号証によれば、控訴人は、外構工事の下請業者である渡辺建設株式会社に対して、その代金として一九〇〇万円を支払っていることが窺われるが、どのような根拠と算定方法に基づいてこのような金額の支払をすることになったのか明らかではないから、直ちに一九〇〇万円相当の出来高があったと認めることはできない。同証人は、原審第二回証言において、外構工事の既履行部分について、被控訴人との間で、二三〇〇万円を支払う旨の合意が成立したかのような証言もしているが、当審における証人瀧田安行の証言及び被控訴人の本人尋問の結果によれば、外構工事の出来高について被控訴人と控訴人が立会いの上で査定をするということは一切行われていないことが認められるから、二三〇〇万円を支払う旨の合意が成立したとする右証言は信用することができない。

また、被控訴人は、当審本人尋問において、外構工事の出来高は被控訴人の査定によれば一五パーセント程度であると供述しているが、その具体的な根拠は明らかではなく、採用することができない。

六  三〇〇〇万円の金員について控訴人が返還義務を負う範囲

以上述べたところによれば、控訴人は、被控訴人に対し、旧本館解体工事の代金二〇〇万円及び外構工事の出来高に対応する代金一三九五万円の各請求権を有するから、三〇〇〇万円のうち控訴人が被控訴人に対して返還義務を負う金額は、これら金員を控除した一四〇五万円である。

七  第二期工事について

1  契約の成否

控訴人が、被控訴人に対して第二期工事の見積書を何回か提出し、工事内容や請負金額について被控訴人と交渉した事実があることは控訴人も認めているところ(控訴人は、その相手方はクボタ産業であると主張しているが、前記認定のとおり、相手方は被控訴人である。)、証拠によればさらに以下の事実が認められる。

(一)  甲第一号証、第一六号証及び第一八号証の各一、二、原審(第一回)及び当審における被控訴人の本人尋問の結果によれば、被控訴人は、第一期工事に引き続いて第二期工事も控訴人に請け負わせることを考えており、控訴人は、被控訴人に対し、昭和六三年六月二五日付けの本館新築工事についての見積書を提出したが、見積金額は概算で一億二三七七万円余りであるとされ、右見積書には、この見積はすべて概算で積算しているので、詳細については本設計、仕様に基づき算出する旨付記されていること、右見積書には図面一枚(一階平面図及び二階平面図)が添付されていること、その後学園の予算の都合で床面積がやや少なくなり、控訴人は、被控訴人に対し、さらに同年八月三〇日付けの金額を六八九六万円余りとする本館新築工事の見積書を提出したこと、この見積書にも一階平面図及び二階平面図が添付されていること、控訴人は、被控訴人に対し、右八月三〇日付け見積書に基づいて同月二六日付け「第2期工事見積り概算」を提出したが(日付は逆になっているが、当審証人瀧田安行の証言によれば、八月二六日付けの右書面を提出するときには既に八月三〇日付けの見積書の内容は判明していたことが認められる。)、本館新築工事の見積金額は七九四八万五〇〇〇円となっていることが認められる。

(二)  甲第二号証、原審(第一回)及び当審における被控訴人の本人尋問の結果によれば、控訴人は、被控訴人に対し、昭和六三年一〇月二〇日前後から一一月初め頃までの間に、第二期工事についての注文請書を提出したことが認められる。

そして、右注文請書(甲第二号証)には、「今回、那須セミナースクール第2期工事、下記予算額にて下記条項承諾のうえ、お受けします。」と記載され、注文内容として本館新築工事等の工事名、面積とその金額が列挙されている。本館新築工事は金額は七五〇〇万円であるとされ(これに通路、階段室工事、食堂二階、研修棟増築工事、東館屋根改修工事等、旧本館解体処分工事、外構工事及び第一期工事追加分を加えて、総額は一億三九五〇万円である。)、給排水設備、電気設備を含むことが付記され、別紙見積書(当審における被控訴人の本人尋問の結果によれば、このときまでに提出されていた前記各見積書をいうものであると認められる。)による仕様であることも付記されている。末尾に、「ただし、本館、食堂2F増築、設計代金は別途。工事内容、仕様については、上記金額に価する仕上に基づき進めるものとする。支払い方法は、全て、現金、工事着工后、月事、出来高清算にて進めるものとする。」と記載されている。

(三)  甲第二四号証の一、原本の存在と成立に争いのない甲第三号証の二、原審(第一回)及び当審における被控訴人の本人尋問の結果によれば、控訴人は、同年一一月一七日、本館新築工事等の工事工程表をファックスで直接クボタ産業に送付したこと、直接クボタ産業に送付したのは、当時、被控訴人が入院していたからであること、この工事工程表(甲第三号証の二)には、各工事の工程が詳細に表示されていること、また、右工程表には「指摘懸念事項」(配管の保温、給水管の凍結防止、窓ガラス積雪保護対策等)についての説明が付記されているが、これは、学園から第一期工事の不良箇所として指摘があった事項と学園の理事長が第二期工事について特に留意すべきこととして指摘した事項(甲第二四号証の一がこれら事項を記載した書面である。)に対応するものであること、甲第二四号証の一には、栄高校陸上部合宿が一〇月二八日から一一月一日まであるので、それ以降取り壊しが可能となる旨の記載もあるが、工程表において既存建物解体工事が一一月一〇日から一二月一五日頃までとされているのはこれに対応するものであり、実際に解体工事はこの頃に行われたことが認められる。

(四)  甲第一三号証、成立に争いのない乙第五六号証の一ないし三、原審(第一回)及び当審における被控訴人の本人尋問の結果によれば、被控訴人は、昭和六三年一一月二四日、クボタ産業との間で、第二期工事についての請負契約を請負代金一億四一五〇万円で締結したこと、この金額は前記注文請書の一億三九五〇万円に設計料金二〇〇万円を加えて決定したものであること(被控訴人は、学園の工事を多く請け負っていたので、本件第二期工事については利益を計上しなかった。)、契約書には、添付の図面一六枚及び仕様書二冊によって工事請負契約を結ぶと記載されており、当時、仕様書とこの工事の設計を担当した平出建築設計事務所作成の一六枚の図面が存在していたこと、乙第五六号証の一ないし三の図面はこの一六枚の図面の一部であることが認められる。

(五)  原審(第一、二回)及び当審における被控訴人の本人尋問の結果によれば、被控訴人は、控訴人によって旧本館解体工事が昭和六三年一一月一〇日頃から開始されたので、以後順次第二期工事が施工されるものと判断して、同年一一月二六日に工事代金三〇〇〇万円を控訴人に送金したこと、この三〇〇〇万円は、被控訴人とクボタ産業との間の前記請負契約において契約成立のときに支払うとされている三二〇〇万円の支払があったので、そのうち控訴人に三〇〇〇万円を支払ったものであって、残りの一〇〇万円は平出建築設計事務所に支払い、一〇〇万円はクボタ産業から受領した手形の割引料に充てたものであることが認められる。

(六)  控訴人が第二期工事を施工しなかったことは当事者間に争いがなく、甲第四号証の一、当審証人瀧田安行の証言によって成立が認められる甲第四号証の二及び当審における被控訴人の本人尋問の結果によれば、控訴人は、平成元年四月六日に至り、突然、被控訴人に対し、瀧田専務が平成元年二月末日で休職となり、外に担当者がいないため、前回、全面的な下請業者として那須セミナーハウスの工事に関与した福田建設株式会社に依頼して見積ができあがったので、検討されたい、との書面を付して、各会社作成の見積書を送付したこと、しかし、被控訴人はこの金額によって控訴人に工事の施工をさせることはせずに、他の業者に第二期工事を依頼することにしたことが認められる。

なお、右書面には、工事内容と対照して工事代金が控訴人の希望に合致しないというような記載はない。

以上の事実が認められ、これらの洋文請書提出に至る経緯とその後の経過によれば、控訴人の被控訴人に対する注文請書の提出によって、第二期工事についての請負契約が、同請書記載のような内容で成立したものと認めることができる。

原審(第一、二回)及び当審証人瀧田安行は、注文請書は予算の枠を取るために学園に是非提出する必要があると言われて、被控訴人の指示するままに深くその意味を考えずに作成したものであり、これによって第二期工事を請け負った趣旨ではない、工事工程表もこれに記載されている「指摘懸念事項」を含めて被控訴人の指示に従って書いただけであって、実際に工事を施工することを前提とした工程表ではない、控訴人としては、注文請書記載の金額で施工ができるかどうかその時点では判断ができなかったものであって、注文請書の「工事内容、仕様については、上記金額に価する仕上に基づき進めるものとする。」との文言はこのことを意味している、と証言している。しかし、この証言は著しく不合理であって、信用することができない。注文請書の右文言も、請負金額は一定の工事内容と仕様を前提とするものであって、工事内容や仕様が変更になれば請負代金も変更になるという当然の事柄を記載したにすぎないものとも解され、合意内容が不確定であったことを示すものではなく、請負契約が成立したと認定するについて妨げとなるものではない。瀧田証人は、原審第二回証言において、旧本館解体工事についての下請業者からの請求書(乙第二八号証)に工期が一〇月二一日から一〇月末日と記載されていることを援用して、これが実際の工事期間であり、工程表の記載がこれと異なるのは、工程表が単なる作文であることを示すものであると証言しているが、右請求書記載の工期の趣旨ないし正確性は明らかではないから、直ちに旧本館解体工事の工期がこのとおりであったと認定することはできない。第二期工事については契約書が作成されていないことも、右認定を左右するものではない。

2  控訴人の債務不履行

控訴人は、第二期工事を施工しなかったのであり、これに関してその責に帰すべき事由がなかったことについては何ら主張・立証がないから、債務不履行の責任を負うものである。

3  相当因果関係のある損害

甲第三号証の二、第一三号証、原審証人五十嵐藤重の証言、原審(第一回)及び当審における被控訴人の本人尋問の結果によれば、第二期工事のうち浴室は、学園の強い要望に基づいて、被控訴人と控訴人との間でも平成元年六月一〇日までには完成させ、生徒が利用できる状態にすることが確約されていたが、控訴人が工事を施工しなかったので、他の業者に第二期工事を請け負わせ、工事を急がせたが、平成元年六月までには浴室は完成せず、同年九月の時点でも完成には至っておらず、完成は同年の冬近くになってからであることが認められる。

ところで、成立に争いのない乙第三三号証の一、二によれば、第二期工事についての建築確認の申請日は平成元年五月八日であり、確認日は同年七月六日であること、検査済証は平成五年一一月の時点においても未交付であることが認められる。したがって、建築確認日以降に工事を開始したとすれば、控訴人の債務不履行がなくとも、浴室は平成元年六月ないし九月には完成しなかったものと考えられる。しかし、建築確認の前から事実上工事を開始する事例も少なくないと推測されるから(当審における被控訴人の本人尋問の結果とこれによって成立が認められる甲第三六号証によれば、第一期工事の食堂棟新築工事についても、これが完成したのは昭和六三年六月一七日頃であるが、確認申請は同年六月八日であり、確認日は同年七月二七日であることが認められる。)、控訴人の債務不履行と浴室の完成の遅延との間に因果関係がないとはいえない。また、検査済証が現時点でも交付されていないとしても、その違法の程度は強度のものではないから、浴室の完成の遅延による損害賠償の請求が法的保護に値しないとまでいうことはできない。

そして、前出甲第九号証の二、第一〇号証の一、二、原審(第一、二回)及び当審における被控訴人の本人尋問の結果とこれによって成立が認められる甲第八号証、第九号証の一、第三四、第三五号証によれば、学園では、生徒を平成元年八月、九月頃に那須セミナースクールに宿泊させたが、浴室が完成していなかったので入浴だけ他のホテル(ホテルサンバレー)を利用させたことがあり、被控訴人はその入浴代五六万一〇〇〇円を右ホテル又はクボタ産業に支払ったこと、また、学園は、生徒を同年九月にいくつかのホテルに分散宿泊させたこともあり、クボタ産業は被控訴人に支払うべき請負代金から宿泊代一四七七万八〇〇〇円を控除してその支払をしなかったことが認められる。

被控訴人の支払った右入浴代は、浴室の完成が遅れたことと相当因果関係のある損害であるというべきである。しかし、被控訴人は、浴室の完成の遅延による損害だけを主張しているものであるところ、宿泊代の負担は、何故入浴だけ他の施設を利用するという方法によることができず、宿泊自体を他のホテル等に振り向ける必要があったのか、明らかではないから(被控訴人は、当審本人尋問において、生徒や父兄から苦情が出て、浴室の備わっていないような施設へ宿泊させることはできなかったと供述しているが、実際に入浴だけ他のホテルを使用した事例もあるのであるから、宿泊自体ができなかったと認めるには充分ではない。)、相当因果関係のある損害であると認めることはできない。

八  結論

以上の次第であって、被控訴人の本件請求は、一四〇五万円の返還請求及び五六万一〇〇〇円の損害賠償請求並びにこれら金員に対する本件訴状送達の日の翌日である平成三年九月二七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は理由がない。

よって、これと結論を異にする原判決を変更することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、九二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する(なお、原判決の仮執行の宣言は、本判決によって取り消されなかった請求については、その効力は失われず存続している。)。

(裁判長裁判官髙橋欣一 裁判官矢崎秀一 裁判官浅香紀久雄)

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